圧倒的やわらかさ
テーマがやわらかさで、キャラクターは糸井重里。めっちゃやわらかくて自由、かつ平易な詩集っぽい感じ。詩とかハードル高いよって人も気軽に読めて、深読みしようと思えばいくらでも妄想が捗る。まさに大人も子供も、おねーさんも。な本ですよ。

大人も子供も、おねーさんも。
詩とか短歌、俳句も面白いよね。「その子二十歳」とか好きなんだけど、背筋を伸ばして読まなければならないので、肩がこるのですよ。とか言っても『みだれ髪 与謝野晶子』を辛うじて読んだことあるくらいなんだけどね。

肩がこらないタイプっていうと、エッセイとの組み合わせかね? こういうことがありました、こんなことを考えました、そこで一句、みたいな感じ。『星を見た金魚 高橋 洋子』は面白旅行記+俳句で、ゆるく楽しめた。

これらは文字制限、韻、季語などなどルールを守るためにどうしても肩がこるのだと思う。たとえば字余りは気になるし、リズムがバラバラだと居心地が悪い。前述の「その子二十歳」なんかは字余りで気になって、でも逆にハッとさせられる高等テクニックだよね。
世の中には自由律誌なんてのもあるけど、おそらくキャッチコピーの世界と近いんだと思う。本書『生まれちゃった。 糸井 重里』はキャッチコピーの連続、自由律誌の詩集みたいな感じだ。それはコラムであったり、ブログやSNSの投稿にも似ている。とうぜん全く肩がこらない。
ともかくやわらかい印象。いい感じに力が抜けてて、休日に散歩しているみたいなイメージがある。なんだけど、キャッチコピー的にぶっささるフレーズがあって、それについて考えようと思えば際限がない。敷居の低さと、奥行きの深さを併せ持っているのですよ。
色々考えたい人にも、気軽に楽しみたい人にも、普段あんまり文章を読まない人にも、ちゃんと門戸が開かれている。これってつまりあれだよね、大人も子供も、おねーさんも。ってやつ。超有名キャッチコピーをそのまま実践したような本です。
小説への応用
この間口の広さはあらゆる分野の理想とするところだと思う。気楽に楽しみたい人からガッツリ派まで、初心者から上級者まで、スタンスや状況に関わらずオープン。さらには興味のない人にまで、関心を持ってもらえる。ある意味キャッチコピーの神髄かも。
そうなってくると気になるのは、僕自身が興味ある分野への応用だ。ズバリ、小説はどうよ? っていうか、小説の分野で間口の広さを実践したのが村上春樹なんじゃね?

『職業としての小説家 村上 春樹』の記事で書いた通り、僕は勝手にテーマ要素とストーリー要素を分けて考える。テーマ要素が強ければ純文学、ストーリー要素が強ければエンターテイメント、どちらも強すぎず弱すぎず、ちょうど良い配分なのが村上春樹だと思っている。
ちょうど良い配分だから純文学好きの人も、エンターテイメント好きの人も楽しめたし、普段小説に興味のない人も関心を持った。もちろん配分は個人の趣味によって変わる。変わるんだけど、ちょうど良いと感じる人が多ければそれだけ間口が広くなる。
ちょうど良い配分にするだけじゃ上手くいかない可能性がある。大人も子供も、おねーさんも。なら良いが、大人には「浅い」とけなされ、子供には「難しい」と泣かれ、当然おねーさんは見向きもしない。そんなパターンだってあるはずだ。
プラスアルファ要素はやっぱり面白さなんだと思う。村上春樹の小説がつまらなかったら両陣営から袋叩きにされただろう。実際は両方の評論家からボロクソに言われたのかもだけど、それを跳ね返す面白さがあったんじゃね?
同じように僕が本書を読んで面白いと感じなければ、物足りないと言っていただろう。そう考えると面白さはプラスアルファではなく、必要条件であり、なくてはならない本質なのかもしれない。
これは半魚人に似ている。半魚人を陸にも海にも適応したスーパー種族と考えるか、陸でも海でも住みづらい残念生物と考えるか。結果を分けるのは適応能力だ。この場合も適応能力はプラスアルファってより、本質な気がする。
などとあれこれ考えると、糸井重里と村上春樹の似ている部分が目に付いた。二人とも謙虚だし、静かに情熱的だ。糸井重里の謙虚さは本書を読めば分かると思う。やわらかい人は謙虚なのですよ。村上春樹の謙虚さは「私の言ってることわかる?」に表れていると思う。『雑文集 村上 春樹』の記事参照。

糸井重里の静かな情熱は、最初の方に出てくる「はじめようか、おれよ」が示してる気がする。村上春樹の「やれやれ」みたいだよね。「大変だけどしょうがないか、やるしかないよね」的な雰囲気に共通項を感じた。

せっかく自分の趣味分野に応用しようと考えたのに、40年も前に実践されているとは……。しかも難しくて出来そうにないし。悔しいので小説に応用できそうな、新しいことを考えてみようかと思ってます。
などと余計ことを考えなくても、ぶすぶすぶっ刺さります。個人的には「くうねるあそぶ。」の上司が凄い。褒めてから削る提案されたら、そりゃ乗っかりたくもなるよね。あと「おれが綾瀬はるかだ!」の勢いが凄い。絶対違うのに気分わかる。面白くて考えさせられる大変良い読書でした。


コメント