『きみは赤ちゃん 川上 未映子』が修羅|どうして「わかる」前提?

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*「晴耕雨読その他いろいろ」(2022/6/3)投稿記事の修正転載です

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「きみは赤ちゃん 川上 未映子」が修羅(2022/6/3)

川上弘美と川上未映子が頭の中で混ざっていたことが判明。ずっと『蛇を踏む』のイメージで読んでた。内容は蛇じゃなくて修羅。

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大人はわかっちゃくれない

エッセイだけど全編を通したテーマがある。「わかっちゃくれない」だと思う。出産なんて大変なんだろうなー、と思って妻に聞いてみた。「わたしはそうでもなかった」とのこと。長男は奇形で生まれて生まれた翌日に手術。

次男はへその緒の奇形でわりと高い確率で深刻な障害あり、だったけどセーフ。帝王切開。長女は高齢出産。いろいろあったから止めとけ、と医師に言われた。二回目の帝王切開。この間僕がしたことといえば長男が生まれた病院から手術可能な病院まで、抱っこしてタクシーに乗ったくらい。

ほとんど役に立っていない。生まれてからもグーグー寝てたし。ということでやっぱり人それぞれ。出産という行為は同じでも、同じ出産はないっぽい。だから他人の気持ちはわかりようがない。なんだけど、わかってほしい。

どうしてわからない!? と憤る。なんで私だけ!? と叫ぶ。そりゃそうだよね。極限状態ならなおさらだ。その根本にはよくある話が転がってると思う。大人はわかっちゃくれない、と学校の窓ガラスを割る子供。古いか。育てた恩をまったく感じてない、と愚痴を言う大人。

女はイージーモード、とネットで暴れる男。女性差別反対! とプラカードを掲げる女。その裏には自分だけが苦労してる、大変なんだ、という意見が潜む。だからこそ、苦労を通り抜けた人間は他人にも苦労をさせようとする。

おそらく苦労してよかった!的タテマエにどうして私だけ!?的ホンネが混ざってる。無痛分娩反対派、帝王切開はお腹を痛めてないからダメ派、なんてのも同じじゃね? どう考えても「わかってほしい」を実現するためには「わかろうとする」努力が必要。それなければ水掛け論に終わる。

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どうしてわかると思う?

ここで不思議なのが、どうして「わかる」前提なのか? 他人が「わかってくれる」と思うか? かくいう僕だって失敗を繰り返す。「パパ、今日は絶対静かにするから、夜遅くまでテレビ見ていいでしょ?」お願いしてくる長男は前科数十犯。

それでももう中学生だし、ひょっとして……という一縷の望みからOKを出す愚かな僕。その夜、跳びはねて騒ぐ長男は怒った僕にテレビを消される。……ホント、ローマの休日のどこにあれだけ興奮するシーンがあるのか。

「子供たちに本の大切さを教えたいから、お風呂場で雑誌を読まないで」妻にお願いする僕。力強くうなずく妻。しばらくして僕は洗面所で雑誌を見つける。湿気に当たってフニャフニャな表紙を見て、またかとため息をつく。じゃあ僕自身はどうか?

明日も朝早いと思いつつやめられないネットサーフィン。あとに何が残るわけでもないのに、ついつい手が伸びるゲーム。甘いものもやめられないよねー。世の中には「わかっちゃいるけどやめられない」がある。

これがある以上、自分の思い通りに誰かの行動を制御できないと思う。「やめられない」イコール「ちゃんと理解していない」なんて言われたら反論できない。これって人間だけなのかね? 動物とかもわかってほしいと願って、わかってくれないと嘆くのかね?

おそらく、ある程度はあったとしても人間ほど深く屈折していない気がする。たぶん人間の成り立ちに関係してそう。群れが大きくなって、しかもリーダーによる上意下達式ではなく共感型の社会になって、わかりあうイコール繫栄するの図式が明確になったからじゃね?

ある程度確からしいことに関して誰かにわかってもらうことは繁栄に直接つながる。家のそばに種を蒔けば安定して作物が手に入るよ、とかナイル川の水位と氾濫には関係があるよ、とかそういうの。

その流れに乗っかって、一般性があやしい自分の考えや気持ちに関してもわかってほしいと願うようになったんじゃね? 考えや気持ちには正解がない。ある程度確からしい、さえ怪しい。なのにわかってほしいと願う。わかってくれないと嘆く。とても人間らしいことだ。

まあ、それだけじゃないんだろうけどね。きっともっと複雑だろうけどね。とても面白い問題を考えさせてくれた良い本でした。

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