『ひとがた流し 北村 薫』は落ち着いていて安定しててキレイ

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*「晴耕雨読その他いろいろ」(2016/11/13)投稿記事の修正転載です

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ひとがた流し 北村 薫

そんなにたくさん読んでいるわけではないが北村薫の小説は女性同士の会話が特徴的だと思っている。現実だと違うのかもしれないが何となく大人しく知的な女性の会話っぽい。兄弟に女性がいるとか母親の会話をそばでよく聞いていたとかそうなリアル感がある。

後は描写が丁寧。印象に残る詩的な言葉遣いでともかく丁寧に優しい描写が続く。かと思うと突然ぶっきらぼうな所があり逆にそれがたくさんの言葉で言い表されるよりも雄弁だったりする。言語は圧縮がかかっている、らしい。我々は言葉を使う時に字面以上の情報をやり取りしているとか。

例えば「家族」と言えば血のつながりがある、一緒に暮らしている人間の集まり、という国語辞典的意味以外に温かい、とか、切っても切れない関係、とか色々思い浮かぶ。生まれ育った国だったり環境だったりで言葉には様々な不可情報が付いている。

北村薫の丁寧な描写はその不可情報を読者に与えているのでは。この人はそういう人、というのが十二分に印象付けられる。で、ある時突然一言で描写が終わると心地よい違和感が残り、しかしそれまで与えられた不可情報からたった一言でわかってしまうのだ。

もちろん錯覚かも知れないが頭の中に形作られた登場人物がたった一言で、ちょっとした方向付けをされるだけで動き出す、ような気がする。

北村薫はこれで良いのだ!というファンも多いだろうが基本良い人ばかりなのが物足りない。良い人しかいない、とは言わない。悪人を書くとトラウマになるほど怖くなるのだ。

この話も基本皆良い人。一番の悪人がおしゃべりおばさん。途中友人が嫌な奴だなぁ、って感じたがそれすら主人公の事を思って、でありやっぱり良い人。

良い人ってだけならまだしも基本老成している。自分はこう、と決めて達成した、安定して満足しております的な人が多い。同じ良い人でもダメ人間でロクデナシだけど性根は良い人、みたいなのじゃない。ともかく落ち着いている。

なので全体的にババ臭い。オバタリアン的なのではなく知的な老人、って感じ。この話には若い人も出てくるがやっぱりどこか年寄り臭い。信念を持って静かに燃える、ってのはあっても粗削りでガムシャラ、激しく燃えるってのはない。

作風が落ち着いていてキレイで、ってのは素晴らしい。でも登場人物まで皆落ち着いてキレイなので物足りなく感じてしまう。と、まあ色々好き勝手書いたけど基本的に面白い話。落ち着いていて安定しててキレイで、って話を読みたい人におススメ。

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