ボンボンの甘え
ストーリーがボンボンの甘え物語でテーマが愚者、キャラクターは持てる者。こりゃ凄いよ。正直、伊集院静の何が良いのかさっぱりわからなかったし、この本を読んでも途中までイミフだった。しかし途中で気付けば、こりゃスゲーってなる。納得。

行動しないんですけど?
まず何が凄いって主人公が全然行動しない。常にイラつき、誰かを怒鳴り殴りつける。しかし自分では行動しない。びっくりするくらい行動しない。ただ仲間とつるみ、一緒になって暴れるのみ。そこに主体性は感じられない。
数ページ読んだところで嫌な予感がしてきた。……このまま最後まで何もしないのでは? 結果は読んでのお楽しみとして、少なくともかなり長いこと主人公は動かない。その間ずっと同じ調子なので覚悟した方が良い。
最初の頃に出てきた「金持ちのボンボンの甘え」的な言葉が頭をよぎる。学生運動を揶揄したセリフなのだが、この話自体が「ボンボンの甘え」だよね。そう思ったら俄然楽しくなってきた。そうでもしないと、自分では何もしないのにやたら高圧的な主人公に気分が悪くなってくる。
著者が意図していようが、そうでなかろうが、別に僕はどっちでも良いのですよ。個人的には意図していると思ってるけど、そのあたりは好きなように妄想させてもらいます。出版された小説は勝手に解釈され、音楽は嘉門達夫が替え歌にする。宿命ですな。
主人公は働いていないのにお金に困っていない。貯金があるんだろうけど、そういう意味で金持ちだ。しかし主人公が持っている中で最も強力なものはお金ではなく才能だ。有名な小説家の先生や編集者が太鼓判を押す小説の才能こそ、最高の持ち物だ。ただただ羨ましい。
これが才能ではなく、努力して手に入れた何かだったとしたらまだ納得できる。これ以前の話を読めばわかるのかもだけど果たしてどうなんだろうね。少なくともこの小説の中では、主人公は素晴らしい才能を持ちながら行動しないように見える。
ボンボンと揶揄される学生たちが持っていたのはおそらく若さ、時間、自由、体力とかこの辺りだろう。主人公はこれらも持ってる上に、小説の才能まである。さらに女性にモテる。男も惹きつける。ここまで来るとチート系なろう小説も真っ青だ。
ということで構図的には行動しないボンボンが遊びまくる話。そうは言ってもいつかは大人にならなきゃダメ。「たけくらべ」的な? 愚者とは遊び友達であり、自分自身。めっちゃ共感。もちろんこんな劇的ではないにしても、誰もが心当たりある淋しさじゃね?
持てるテクニック
ということで今日も良い読書体験でした! ……では済まないのですよ。ケチな僕はさらにプラスアルファを求める。どうして主人公はこんなに「持てる者」なのか? ここが超気になる。女性ももちろん羨ましいけど、小説の才能とか、友達とか、どうやって手に入れたの?
どうやら人間的に魅力があるらしい。嘘か誠か、この本の中にもそういう記述が多数見られる。そもそも僕が伊集院静に興味を持ったのって村上春樹が昔何かで書いていた記憶があるからだ。村上春樹が評価しているとすれば、僕としてはそれだけで気になる。……記憶違いかもだけど。
おそらく人間的な魅力が「持てる者」の秘訣だと思う。周囲を惹きつけ、良い作品の土壌となり、若さを保つ、みたいな。仕事もできるだろうから金銭的余裕も得られるだろうし。ではどうやったら魅力をゲットできる? これまたムズそうだけど。
魅力は色々あるだろうけど、この本と関連付けるならば、行動しないことが魅力につながる可能性がある。ちょっと前に「人の話を黙って聞く」ことの大切さにについて考えたのだが、その行動バージョンじゃね?
「みんな話したい⇒聞き上手が重宝される」って構図と同じで、「みんな好き勝手したい⇒黙って一緒に付き合ってくれる人が貴重」なのでは。だからと言ってイエスマンじゃダメで、しっかり自分の意見があるのに付き合ってくれる人が良さげ。
一緒にトイレに行ってくれるとかそういう緩いのではなく、この本の場合はチンピラと喧嘩するとか危ない橋なわけだ。これに付き合うのは相当大変、イコールめっちゃレア。とんでもない度胸が必要と見た。
そのうえ主体的に行動しないから第三者的な立場で全体を俯瞰できるのでは。そうやって手に入れた視点とか、気付き、感情などなどは感性を磨いてくれそう。これが小説を書く上で大きな力を与えてくれるんじゃね?
これは僕にはできないことだ。主体的な行動を旨とする脳トレに反する。……と思ったが、よくよく考えたら脳の強化書に書いてあった気がしてきた。他人の立てたスケジュールで行動する、的な脳トレがあった気がする。だとすれば脳トレ的にも良い?
などと「持てる者」についてあれこれ考えたが、僕を含め大抵の人間は一番大事なことをすっかり忘れている。我々は常に「持てる者」だ。僕も昔は若さを持っていた……、などという過去形ではない。命を持ってることを認識せず、持っていないものばかりを羨ましがる。
持っていないものを欲しがるのは人間の性分としてどうしようもない。ここまできたらどうにもならないなどと諦めず、死ぬまで右往左往したい。他人に笑われようが構わない。アドラー心理学風に言うと踊り続け、岡本太郎風に言うと闘い続ける。そうしないことが生き恥だ。
今日も勝手にいろいろ考えたけど、かなり面白かった。でもぶっちゃけ敷居が高い。好きな人は好きなんだろうけど、人を選ぶ印象。僕みたいに合わない人間は頑張ってあれこれ考える必要がある。色々と考えさせられる良本だけど、考えること自体が人を選ぶよね。
↓若いころに何もしないってのはやっぱり難しそう。
↓結局みんな孤独なのですよ、多分。











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