ビール飲みたい
ストーリーが「ビールを持たない村上春樹とその巡礼の年」で、テーマが同時存在、キャラクターが歳を取った村上春樹。ファンとしてはビール飲みたくなる一冊。

推しバスツアー、的な
まずファンならタイトルだけで妄想が捗る。どう考えても『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』だからだ。そのものでも良いし、匂わせのみでも良いし、どっちにしろ大喜び。
『世界の終わり~』っぽいのはもちろん、その他にも井戸とか図書館とかどこかで聞いたような単語が出てくる。そのたびにファンはいちいち反応して身構えるわけだ。
読み進めると『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』みたいな気分になってくる。ストーリー的に、ってよりは自分が巡礼の旅に出ているような感じ。あるいは村上春樹が巡礼している、さらには村上春樹と一緒に巡礼している錯覚に襲われる。
全体的な雰囲気としては『一人称単数』。昔の「やれやれ」みたいな空気ではなく、最近の重たい感じ。そういうもんだよって達観して、ウイスキーを傾けながら黙々と進む、みたいな。
以上より、ファンとしては微妙な印象を受ける。名作に触れることができて嬉しい反面、好きだった昔の雰囲気を感じられず悲しい。大御所が勢いを失ってからリリースするセルフリメイク、せっかくだから新解釈とかいろいろ詰め込んだよ作品を思わせる。
こう書くと残念な感じだけど、一方的に投げつけられてるわけではない。主人公と村上春樹と読者とで巡礼するから、アイドルの聖地巡礼バスツアーみたいで憎い。昔の方が好みだったなー、と思っても一緒に巡礼出来たらファン冥利に尽きる。
どの辺で昔の方が好みか? 『職業としての小説家』にめっちゃ感銘を受けた身としては、この話は説明しすぎに感じる。直接的に考えを述べられるよりも、言動で表してくれたほうが妄想しがいあるのですよ。
思うにサンドイッチがないからじゃね? もうちょっと説明してよ、ってところで、昔はサンドイッチの作り方とか出てきた。そっちじゃねーよ、とか思いながらもファンはニヤニヤ。
あとやっぱり僕には重たすぎる。ビールの軽妙さが欲しい。『世界の終わり~』も『海辺のカフカ』もバランスが魅力的だった。片方が無くなり大きく傾いている印象を受ける。ぶっちゃけこの調子で下巻が同じ分量続くとキツイ。
オーディブルでまだ下巻が出てないって知らないで読み始めた。読んでからまとめて記事を書くつもりだったけど、色々考えてたら書きたくなりました。正しい道であると確信をもって、そのうち下巻も読みたいと思います。やれやれ。
同時存在
上記の通り、巡礼の旅は半分終わった。これにより僕は『一人称単数』で味わった喪失を再認識したのですよ。ってことで気になるのはアレだ。ビールとサンドイッチを持った村上春樹はどこに消えた?
この答えは明白だ。ズバリ、壁の向こう側ですよ。もちろん僕が今いるこの世界が壁の内側なのか、外側なのかは不明。いずれにせよ、この世界にはウイスキーを好み少々説明しすぎな村上春樹が残った。
もし僕らがビール好きな村上春樹に会いたくなったら、昔の本を読まなければならない。影を失ったり、目にキズを持ったりするよりはずっとハードル低いので助かる。そう考えると喪失ではなく『螢・納屋を焼く・その他の短編』みたいな不在?
ってことは同時存在なわけだ。有るの中には無いが、無いの中には有るが含まれる。例えばふだん僕らにとって空気の存在はないに等しいが、なくなったらなくなったで存在を痛感するだろう。この本で村上春樹のどこに魅力を感じていたのか痛感するのと同じく。
現実的にはもうちょっと複雑でゼロイチではない。実際の変化は連続だから、ビールとウイスキーの間にワイン位のアルコール度数の何かがあったはずだ。そういえば僕は『騎士団長殺し』を読んでいない。
さらに言うと、僕にとっては残念な喪失であっても人によって評価が分かれるだろう。そもそも本人は確信をもって正しい道を進んでいるはずだから、好ましい変化に違いない。これは『ダンス・ダンス・ダンス』だ。
今、この瞬間のステップを大事に踊り続ける。意味なんてもともとない。そうすると思いもよらないところに行きつくことがあるとか。その結果の変化を他人がどうこう言ってもしょうがない。言うのもまたその人の勝手だけど。
それに対して僕らも僕らで自分のステップを刻み続けるしかない。できれば『風の歌を聴け』みたいに、どこかで流れている重要なメッセージに注意を向けながら。正解なんてどこにもないから難しいんだけどね。
などとあれこれ妄想して、楽しい巡礼の旅でした。オーディブルの下巻は1月に出るらしいけど、そのころにオーディブルをやってるかどうか不明。できればもうちょっとビール成分があるとありがたいんだけど。やれやれ。
↓読めばわかるさ、迷わず読めよ。
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