*「晴耕雨読その他いろいろ」2024/11/29投稿記事の修正転載です
「十二人の死にたい子どもたち 冲方 丁」を株と結び付けて満足(2024/11/29)
ストーリーが逆転脱出ミステリーで、テーマが価値、キャラクターは様々な価値観の人。もともと映像化を意識したような贅沢な導入部分が印象的でした。
逆転の発想
十二人の子供たち、ってくらいだから十二人出てくるわけだ。……長くね? 冒頭、まず一気に十二人全員がそれぞれの視点で登場する。もちろん各自決意を持ってこの場所に集まったっぽい。
だけど理由が示されるわけでもないし、オッサンには十二人も憶えきれないし頭がごちゃごちゃになる。この小説を読んで感銘を受けた人が似たような書き方で新人賞に応募したら、十二人のうち半分も出てこないうちに読んでもらえなくなって落選な予感。
たくさんの人物をいっぺんに登場させて飽きさせないだけの技量が必要不可欠。もっと言ってしまえば冲方丁という信頼性があってこそ成り立つ作品な気がする。積み重ねてきた研鑽を必要とする点で贅沢な作りの小説だと思う。
もしこれが小説ではなく映像だったら十二人をもっとしっかり認識できるだろう。ところどころ視点人物が知りえない記述もあったりして、そのあたりも映像作品っぽい。などと思ってたらやっぱり映画になってた。そういえば聞いたことあったかも。
変な視点で読み進めるとやっぱり期待は裏切られないわけだ。普通のミステリーと逆の脱出ものみたいになってて発想がスゴイ。
よくあるミステリーだと、偶然(っぽく)居合わせたメンバーが、意図せずに閉じ込められて、生きるために、謎を解こうとする。オレはもうこんなところにいたくない! ひとりで出ていくぞ! とか言って無理に脱出を試みたメンバーが直後に死体となって発見されるパターンがよくある。
一方この小説は必然的に集まったメンバーが、意図して閉じこもって、死ぬために、謎を解こうとする。……スゲーな、よくこんなこと考えたな。流石はプロ。流石は売れっ子。流石とした言いようがない発想ですな。
価値は株
ミステリーなんだからテーマなんてない。と思ってたんだけどこの話にはしっかりあって、それは「価値」だと思う。中でも「価値観の違い」的な雰囲気。
価値観は人それぞれ。わかっちゃいるけどなんとなく自分中心で考えるわけだ。他人の価値観なんて知らないから自分基準にならざるを得ない。これがリンゴとかバナナとかの商品だったら理解しやすい。好き嫌いがあるからね。
じゃあ命はどうか?命は地球よりも重たい、的な言葉がある通り、社会通念で命の価値はめっちゃ高いことになっている。そこまで高価なはずの命を支払ってまで得たい死のメリットとは何か? 読んでいて登場人物の話に納得したり首を傾げたりする。
個人的にはめっちゃ苦しくて先がないなら死ぬのもアリだと思う。でも苦しいの基準が不明確だし、先がないかどうかも絶対じゃないだろうから、妥当かどうかの判断がムズイ。実際の妥当性は本人にしかわからないっぽい。
かと思えば本人でもよくわかってなかったりもして結局は正解がない。正解がないからといって自分の判断が絶対かって言うとそうでもない。なんとなーく正解っぽい辺りが社会通念で決まっていて、大きくずれると社会不適合者になる。
社会的に、命は重くないと困る。軽かったら殺人が横行するし無敵の人が暴れまわるし、社会そのものが崩壊する。重いなりに命の価値は時代や場所、立場によって異なる。異なっちゃマズいんだろうけど実際には異なってきた。昔の戦場で奴隷の命なんてめっちゃ軽く扱われていただろう。
ともかく社会通念から大きくずれるとマズい。死んだ後の事なんか知ったこっちゃないけど、一個しかないから慎重に行きたい。無駄死には勿体ない。
さらに言うと命以外の価値では社会通念とのずれがより一層気になる。ぎゃー、損した―、みたいなのは絶対悔しい。こうなってくると株みたいだ。自分ひとりの評価だけでなく、社会一般の評価が重要。
ある会社の業績を正確に予想できても社会一般がどう予想しているかの判断がずれると儲からない。業績好調なのに、思ったほどでもないとかいう理由で下がる銘柄もある。だとすると価値ってのは本来曖昧で不明瞭なものなんだろうね。
なんとなく物には値段が付いてて、社会通念でこれくらいっていう暗黙な了解があるから意識しづらいけど。そんな調子で今回も余計なことを考えながら小説を読めて満足。ともかく発想がすごくて、色々考えさせられる一冊でした。
↓すぐ飽きるかと思ったけどわりと長く続いてます。
↓かわうそみたいな人だったんだと勝手に推測。
↓貧乏人的金持ちっぽさ。
↓10万人のうちの1人は僕。
↓気楽さと安定、どっちも欲しいけどムズイ。









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